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2002/11/15
なぜ、男性トイレにベビーチェアがないの? 素朴な疑問をぶつけて"構造改革"したい


車椅子の人の目線、子どもの目線

打ち合わせ中の大野さんの写真 車椅子用のトイレも徐々に拡充されてきていますが、今のところまだ、男性用もしくは女性用に1か所か、外側に男女共用を1つだけの設置です。1人で利用する車椅子の人もいれば、介助者と一緒に利用する人もいる、その介助者が同性とは限らないという状況を考えて、男性トイレ、女性トイレにそれぞれ1つと外側に男女共有を1つ、合計3つの車椅子トイレが必要だと思うんです。そんなふうに発言すると、
「それは我がままだ」
何人かの人から、そう言われました。でも、車椅子利用者に軽度から重度までさまざまな障害を持つ人がいることを示すトイレメーカーのプレゼンテーション・ビデオを見たあと、「我がままだ」と言っていた人の考えが180度変わったこともありました。

車椅子といえば、駅の料金表が、高い位置に表示されているのも気になっています。車椅子利用者の目の位置からは高すぎて、光の反射の関係でとても見にくいんです。ということは、子どもや背の低い人にも見にくい。健常者の目線で決められてきたことに、「おかしいよ」と発言していくのも大事かな、と。車椅子の人や女性が利用しやすくなることが、すべての人が利用しやすくなることにつながると思うので、私はそういったことについても、どんどん発言していくつもりです。

これまでに担当したなかで印象的なのは、長堀鶴見緑地線の新設にともなう大阪ドーム前千代崎駅建設の時に、1年半にわたって現場の担当をしたこと。発注先の土木や建設の会社3社のそれぞれの監督と打ち合わせし、工事の全体を指示する担当者です。
「女性の担当者ですか、珍しいなあ」と言われたことはありましたが、実際の仕事にはいると、専門職ですから男だろうが女だろうが関係ない。ヘルメットに安全靴姿で現場に出ると、男だ女だというより、担当者なわけです。

大野さんが担当した大阪ドーム前千代崎駅のエレベーター
大野さんが担当した大阪ドーム前千代崎駅のエレベーター

仕事をしていくなかで、私たちの職域では男と女の差はないと思います。「力」の差は確かにあり、設計図を描く時の筆圧が弱く、「やっぱり女の子だな」と言われたことがありましたけど、それは椅子に腰かけずに立った状態で製図台に向かい、全体重をかけて線を引くという方法で克服できたし、数年前からコンピューターで設計するようになったので、今では男性並みの筆圧など不要。以前は、労基法で女性は深夜労働につけなかったために、終電が終わってから始発までの時間帯に行う保守点検業務のある現場事務所の仕事は出来なかったけど、改正男女雇用機会均等法の施行にともなう保護規定廃止により、それもクリアしたわけです。
「女性第一号だから、がんばって」と期待されたり、「女性だからこその苦労があるのでは?」とよく聞かれましたが、私は女性第一号だからがんばろうという気もなければ、女性だからこその苦労を感じることもありませんでした。大阪ドーム前千代崎駅を担当したときのことに話を戻すと、駅のコンセプトが「にぎわい」でしたから、自分の裁量で決められる部分は個性を出そうと思い、エレベーターの扉と壁面のエッチングに水玉とワカメの図案のものを使ったりしましたけど、それは別段「女」だからではなく、「私」だからですよね。

※大阪市交通局技術職員(設計)には、建築設計の知識・実務が要求されるが、資格は不必要。現在、同市建築課職員59人中、女性は11人にまで増えた。建築設計関係の資格には、国土交通省の免許を持つ「1級建築士」(2002年3月末現在全国総数303,844人)と、都道府県知事の免許を持つ「2級建築士」(同649,946人)「木造建築士」(同13,613人)があるが、「男女に分けて統計を取る必要がない」(国土交通省建築指導課)とのことで、男女別の人数は集計されていない。

大野美喜子(おおのみきこ)

建築士。1972年大阪市生まれ。大阪工業大学高等学校、同大学短期大学部建築科卒業。1991年に、大阪市交通局に入局。地下鉄駅の新設・改修の設計に携わってきた。現在、建設技術本部建設部建築係第2建築課に所属。

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