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2003/09/19
男性の皆さんへ 「弱い自分」をさらけ出し会話のキャッチボールを楽しもう


「自分らしさ」を軸に、「男の生き方」の問い直しを

講演のときに微妙だと思うのは、男性たちの、ちょっとした意識のズレです。先日も「男性の生き方」をテーマにした公民館講座を依頼されたのですが、受講生の人たちがイメージしておられたのは、一方的に話を聞く形式の講座だったらしく、「まず、みなさんの体験を語ることから始めましょう」と申し上げると、そんなのは講座ではないと多くの方がおっしゃる。
あるいは、「定年後の問題」をテーマに話すことになったときは、実利的な年金の話など老後の経済設計の話を期待され、私が「夫婦間の関係性など、定年後の生き方の問い直し」の話をしようとするときょとんとされる。

定年後の経済設計も、確かに大切です。しかし、妻は「夫は、私の話を聞いてくれない」と思っているのに、夫は「妻の話をいつもきちんと聞いている」と思っている。そんなギャップを埋めていくために、人とのコミュニケーションについて学ぶことも大切だと認識してほしいと、私は思うのです。
たとえば、妻が「くやしかった気持ち」を受け止めてほしいと思い、夫に話す。しかし、夫はそれを聞いて「事実確認」をするばかり。くやしかった気持ちに共感して、受け止めることができないといったことが多いようです。つまり、男性には、会話のドッジボールは得意だが、キャッチボールが苦手な人が多い。生まれたときには差がなかったのに、「男らしく」と育てられるなかで、会話のキャッチボールをする機会が非常に少なかったから。属する仕事社会のなかで、プレゼン能力は高められても相手と同じ目線で語り合う能力を高める機会が少なかったからでしょう。冒頭に話した、私の父が「痛い」「きれい」という言葉を口にできなかった理由と同じです。

中村彰さん 今からでも遅くない。男たちよ、相手の気持ちに寄り添いながら、会話のキャッチボールを楽しんでみようよと、私は言いたい。楽しいときに「楽しい」、辛いときに「辛い」、面白いときに「面白い」、痛いときに「痛い」・・・と口にし、うれしいときは素直に喜び、悲しいときは涙を流すことによって、また「弱い自分」をさらすことを恥と考えずに、あるがままの自分をさらけだすことによって、相手のそういった気持ちにも敏感になれると思う。
そして、「男だから」とがんばり過ぎるのをよそうとも言いたい。仕事上では、「どうしても自分でせねばならない」ことはわずかだと思い、理不尽な我慢はやめよう。
たとえば、男性しかいなかった職場に女性が入ってくることになったとしたら、それまでの慣行を変えなければならないので大変だと思わず、「変えるチャンスだ」とポジティブにとらえること。専業主婦のいる夫である人を前提にした職場慣行を見直し、改善するのは、男にとってもプラスだと考えよう。

どうすれば、そんなふうになれるか、ですか? スポーツでも趣味でも何でもいいから、若いうちから、仕事以外のことに首をつっこんでおくこと。これに尽きるでしょう。何々をしてみたいと思うことがあったら、「そのうちに時間に余裕ができたら」ではなく、ともかくどんなに忙しくても初めの一歩を踏み出してみること。「仕事以外の何か」を持つと、従来の考え方が多少なりとも変わっていく。「男らしさ」の価値観にしばられずに、「自分らしさ」を軸に物事を判断する訓練をしていってほしいと思います。

中村彰(なかむら・あきら)

メンズセンター運営委員長。1947年、大阪府生まれ。1991年に仲間5人でメンズリブ研究会を発足させ、1995年にメンズリブ活動の拠点となるメンズセンターを大阪市中央区に設立。メンズセンターの現在の維持会員は40人、通信会員は250人。著書に『わたしの男性学』(近代文芸社)、『新しい男女像を求めて』(幻想社)など。

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