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2003/12/05
自分が変わろうとすれば、相手も変わっていく アルコール依存症の妻をもつ夫の会


家族にも言いにくい病気

「どう生きるべきかを突きつけられる病気です」と話す今道裕之医師
「どう生きるべきかを突きつけられる病気です」と話す今道裕之医師

女性患者はどの程度増えているのだろう。
新阿武山病院の今道裕之医師によれば、現在、アルコール依存症の患者数は全国で約250万人。女性患者は1975年頃から急増し、患者の男女比率は以前の30人に1人から、4人に1人の割合になったという。子育てを終えた40歳代に加え、1990年以降、摂食障害の合併症などで20~30歳前後の若い層に増えているそうだ。女性の飲酒が一般化したことが原因しているのではないかと話す。
男性に比べ、女性の方が依存症への進行が速い。今道医師の調査では、速い人で飲み始めて6カ月という例も。女性の場合、生理前後に情緒不安定になることが多く、女性ホルモンが影響するのではないかといわれている。
「家事をしながら飲酒が習慣化し、そこに心理的な要因や夫婦間のストレスが起きた時に一層飲むようになり、またしばらくは元の飲み方に戻るという状態を繰り返しながら、コントロールできなくなり、1杯飲むと止められなくなってしまう。そこまで来ると完全な依存症です」
家族や親しい人にも言いにくい病気である。仮に打ち明けても「おまえは意志が弱いんや」「なんで止められへんの」といった説教にしかならない。コントロールできないことが普通の人にはなかなか解ってもらえない病気である。以前は「女のくせに、女だてらに」と非難されることで、女性患者は断酒できても二重の苦しみがあったそうだ。

問題は自分の中にある

病院内での「夫の集い」を担当するソーシャルワーカーの三芳朋子さん
病院内での「夫の集い」を担当するソーシャルワーカーの三芳朋子さん

新阿武山病院に全国でも珍しい女性患者を受け入れるアルコール治療病棟ができたのは1998年。治療は自分の体験を語り合っていく集団療法が中心だという。これまで誰にも言えなかったことを言葉にすることで気持ちが楽になり、癒されていく。また、人の体験を聴くことで共通点を見つけいける療法だ。「否認の病気」といわれるアルコール依存症は、「自分の飲酒そのものが認められず、私はそこまでいっていない」と思い込みがちだが、人の体験を聴くことで「私もそうだ、そんなことがあった」と、自分の姿が見えてくるようになるそうだ。そこから病気を自覚でき、治療意欲へとつながっていく。「アルコール依存症になった人は孤独感が強く、そうした一体感が『断酒しよう、頑張ろう』という土台になっていくんです」と今道医師。
外来だけで、あるいは1回の入院だけで断酒できる例もあるが、多いのはある程度断酒を始めても何かのきっかっけで飲み始めて2~3回入院を繰り返す例。退院後10年の時点で、約4割は飲酒により死につながるという。

同病院では、以前から男性患者を中心にした家族教室は開かれていたが、女性患者も受け入れるようになった年に「アルコール依存症の妻をもつ夫の集い」も始められた。「男性患者の場合、家族は割と協力的。しかし、女性患者の場合、関わりたくないという男性の方が多く、すぐに離婚になるケースもあった。最近は妻の病気を受け入れ、認めていこうという男性が出てきて、こうした夫の会が成り立つようになりました」
「夫の集い」を担当するソーシャルワーカーの三芳朋子さんは、「夫が参加し、同じ立場の方の話を聴き、また自分の体験を語ることで精神的に安定され、患者である妻の方がいい方向へ向かう場合もある」と話す。「最初は奥さんを治したいとか、飲酒を止めさせたいという意識で来られるんですが、それだけではなく自分自身の人生を考えていかなきゃいけないということに気づいていかれます」
今道医師は、依存症は“どう生きるべきか”を突き付けられる病気でもあると語る。
「最初は妻に『お前が悪いんだ』と攻撃的になる夫も、勉強するうちに変わっていく。この病気を良くしていくには、まず本人が『社会や夫が悪いから』と人のせいにするのではなく、自分の中に問題があるという意識を持たなければいけないこと、家族も相手を責めるのではなく自分の問題として考えなければいけないことだと判るんです。お互いが、まず自分が変わろうとし、その努力をして、相手が変わるのを待つという考え方に移っていくわけです。これはアルコール依存症に限らず、普遍的なこと。そういうことを深く認識し、実行していかなければ、断酒の継続はできません」
自分が変わると、不思議と周りも変わっていく。ちょっとした表情や言葉づかいに人間は敏感に反応していくそうだ。

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