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2003/12/05
自分が変わろうとすれば、相手も変わっていく アルコール依存症の妻をもつ夫の会


涙が止まらない

「夫の集い」でテキストとして使われている森岡洋著『アルコール依存症 家族に贈る回復の法則25(アスク・ヒューマン・ケア)
「夫の集い」でテキストとして使われている森岡洋著『アルコール依存症 家族に贈る回復の法則25(アスク・ヒューマン・ケア)

大阪府内の会社員、原田さん(仮名・61歳)も自助グループに救われた一人だ。
妻(51歳)が依存症になったのは、痴呆症の母親の介護がきっかけだった。10年前のこと。妻は介護の辛さを夫に相談することもなく、徐々に酒に逃げるようになった。切れると飲み、飲むと夫に言葉で突っかかり、殴りかけ荒れるという生活が続いた。
「営業所長の肩書があり、外には知られたくなかった。仕事に逃げていた部分もある。でも、辛いと話してくれれば、違う方法も考えられたはず」と振り返る原田さん。
会社では自分の考えを貫き通し、スタッフを引っ張っていく存在。家庭でも「こうするんだ」と結論しか言わない夫に、妻が口を出す余地はなかった。とはいえ、酔いつぶれる妻に代わり、母親の世話をし、子どもたちの弁当を作り、家宅後も家事をする日々を続けてきた原田さん。母が4年前に亡くなった後も妻の飲酒はおさまらず、2人の子どもたちの前でも夫婦ゲンカが絶えなかった。家にある酒を捨てると、外へ飲みに行く妻。飲むためには、どんなことでもした。  
そんな頃、原田さんが手術入院をすることになり、困り果てて相談に行った保健所で初めて「奥さんはアルコール依存症という病気だ」と聞かされた。本当に依存症なのかという思い、その病気に自分が巻き込まれているという現象が理解できない状態が続いた。
5年前に初めて参加した自助グループ。「家内のことを打ち明けた途端、涙がボロボロとこぼれ落ちました。人前で泣いたことなど一度もなかったのに、涙が止まらない。一部始終を話して、初めて自分のしんどさに気づきました」
会で人の体験を聴きながら、自分の置かれた状態を徐々に理解していった。同僚や部下にも自然に事実を打ち明けられた。「世間体なんか何も繕いようがなく、すでに木っ端微塵の状態。でも、世間というのは面白い。隠していると陰口をたたかれるのに、すべてを話したら周りが同情してくれるようになるんです」

知ってほしい「夫の会」の存在

依存症は根本的には治らない病気である。原田さんは「仕事は逃避場所じゃなかったのか」という自問自答から始まり、「自分の人生を生き、自分以外の考えも認めることだ」という結論にたどり着いた。それまでは妻に飲むなの一点張りだったのが、妻が病気で飲んでいることが認められるようになったという。そこから新しいルール作りが始まった。「飲むのはあなたの自由。飲んで起きることも、あなたの人生も全てあなたの責任。問題が起きると私はいなくなるよ」と体験的に妻に伝えるため、酔っぱらって騒動が起きるたびに子どもを連れて車で出かけ、外泊することもあった。
妻は2年ぐらい前から落ち着き始め、今は自宅で断酒を試みている。今春は久しぶりに夫婦で北海道旅行をし、2人の子どもも自分たちの道を歩み始めた。両親の生活を見て育ち、結婚を否定していた長女が「お母さんのことをお願いします」と結婚した。
「私が変わることで、私が妻の夫であり、自分の父親だと認め、娘は結婚に踏み切れた。これほど嬉しいことはありませんでした」
原田さんは、営業所長を続ける今も家族の会に毎週参加する。「長年勉強していても、同じ屋根の下にいると不満が出ることがある。『依存症は病気だという自覚』を再認識するために会に出るんです」
「アルコール依存症の妻や母親を抱え、困り果てているだろう多くの人たちに、こういう会があることを知ってほしい、参加してほしい」とつけ加えた。

「アルコール依存症の妻をもつ夫の会in関西」

メール:tommyk@h5.dion.ne.jp
FAX:078-441-2491
URL:http://www.h2.dion.ne.jp/~tommyk/

新阿武山病院

所在地:大阪府高槻市奈佐原4-10-1
TEL:072-693-1881
FAX:072-693-7743
URL:http://www.shin-abuyama.or.jp

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