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2004/01/23
加害者にもケアと救済を~ストーカーの悲劇をなくすために~


「愛情」に依存する加害者たち

・・・精神的虐待によって生きる気力そのものが減退していくんですね。では、実際に活動を始められて感じたことは?

加害者たちの面談を始めて、まずとても驚きました。「性格の歪んだどうしようもない人」をイメージしていたのですが、実際に会うと彼らも断ち切れない未練に苦しんでいたんです。決して「悪い人」じゃない。その姿を見て、驚くと同時に私自身もかつてはストーカーだったということに気づきました。
私、20年ぐらい前に大失恋をしたんです。今思えばストーキングをしていて、挙句の果てに相手に決定的なことを言われ、「もう生きていけない」と死のうとした。しかも相手を巻き込んでの心中未遂を起こしたんですよ。彼にも周囲にも迷惑をかけたけど、私自身もとても苦しかった。目の前の加害者に、当時の私が重なって見えたんです。
要するに、「禁断症状」なんですね。お酒に依存するアルコール依存症や薬物に依存する薬物依存症と同じです。その人がいないと生きていけない。その人を支配し、時に殴らずにはいられない。自分の感情をコントロールできず、相手にがむしゃらにしがみついている状態です。「その人さえいればすべてうまくいく」と・・・。
ストーキングしたり、殴ってしまうのを相手のせいにするのですが、実は見捨てられる恐怖やとてつもないコンプレックスである場合が多いですね。つまり自分に自信がないから、相手を力で抑えつけて支配しようとする。ストーキングの場合、加害者にとって「依存」がかなり大きなテーマだと気づきました。
今思えば、私にストーキングしていた男性も依存していたんですね。私がどんどん仕事を発展させていくのを見て、自分が取り残されるような気持ちになったのでしょう。だから「一緒に仕事をやろう」と持ちかけてきたり、私が新しいことをやろうとすると会社のものを壊しに来たりした。彼の心の動きを理解して初めて不可解な言動の理由がわかり、目を開かれるような思いでした。

・・・加害者の苦悩を目の当たりにして、何を考えましたか?

「こういう男とつきあってはいけない―危ない「ストーカー男」の見抜き方」(小早川明子著・マガジンハウス 価格1,300円+税)

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加害者も苦しんでいるということがわかると、ストーカー行為を止めさせ、場合によっては罰することで解決したと言えるのだろうかという疑問を感じるようになりました。ニュースになるのは特異なストーキングが多いけど、実は見ず知らずの人が加害者になるということはあまりありません。つきあっている時に殴られたりいじめられたりして逃げ出す・逃げられたくないから追いかける、そういう関係性があるケースがほとんどなんです。だから被害者も「ストーキングをやめてくれればいい。できれば処罰はしたくない」と言う人が多い。まだ少しは愛情が残っている人もいれば、「縁があった人だし」「私にも悪いところがあったのかも」という人もいます。共依存的な関係は見直すとしても、処罰することが目的ではないわけです。それに、実際に処罰しても同じことを繰り返す人が多いんですよ。同じ相手の場合もあるし、新しい相手を見つける時もあります。
だとすれば、本当に被害者が安心するためには加害者が「立ち直る」こと。私たちは加害者をケアし、その立ち直りを支援しようと考えました。

・・・思いがけない展開ですね。具体的にはどのようなことを?

依存症に関する勉強を始めました。アルコール依存症などの立ち直りプログラムを見ているうちに、ストーキングする人との共通項がたくさんあるのを発見しました。ストーカーは、実は「ラブ・アディクション」(愛情依存)という依存症だったんです。
警察などにはこういう視点はありません。だから人格を非難してしまいます。「こんなことをするおまえは悪いヤツだ」と。悪いヤツだと言われたら、立ち直るものも立ち直らない。だから私は「あなたは悪くないよ」と言います。「でもあなたの病気は悪い。あなたは依存症という病気なのよ」と言うと、早い人は一月で「そうだったのか」と気付き、回復し始めます。平均して3ヶ月から半年、遅い人は2、3年かかりますが。

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