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2004/11/05
一人親家庭サポーター天野和昭さん 父子家庭になって見えてきたもの


子供を通じて新しい世界と出会った

子どもたちは、18歳と16歳になりました。うちは反抗期らしい反抗期もなかったんですけど、最近、息子がポツポツと自分の気持ちをぶつけてくるようになりました。有無を言わさず抑えつけたことはないと思っているんですが、体が大きくなるにつれて力を誇示してくる息子に負けまいとがんばってしまったところがあったんでしょうね。今が遅れてきた反抗期かもしれません。よそのお母さんを見ていると、「うるせえ、ババア」なんて言われても、文句を言いつつ柔らかく受け止めている。ぼくはどうもそれができなくて……、悩みどころですね。
常に意識しているのは、家庭のなかに価値観がひとつしかないという怖さです。自分の価値観だけで育て続けていいのかという疑問はずっともち続けてきました。テレビは離婚直後から去年の秋までの12年間ありませんでしたし、携帯電話は今ももたせていません。「友達と待ち合わせもできない」と文句を言ってますよ(笑)。「お父さんみたいな考え方を受け継いだら、(社会のなかでの)自分たちの居場所がなくなる」と言われた時は、ちょっとつらかったですね。
ただ、ぼく自身は子どもたちに感謝してます。ぼくのそばにいてくれたこと自体に感謝しなくちゃいけないと思う。離婚して、ただのシングルに戻っていたら、見える世界は以前と同じだったでしょう。子どもがいたからこそ、子どもというフィルターを通してたくさんの世界を見せてもらった。そういう意味でいうと、子どもの存在は大きいです。そして何より、子どもと過ごす時間は楽しかった。

天野さん写真

父子家庭を「人生を見直すチャンス」として

ぼくは父子家庭の道を選んだけれど、離婚すると自分の母親、つまりおばあちゃんに子育てを任せる人が多いです。だから援護相談員や介護派遣人のような制度を利用する人が少なく、「ニーズがない」と判断されて廃止されたりするのですが。
何らかの事情で父子家庭になった人には、「男が働きながら子育てなんてできない」と決めつけず、思い切って生活を変えることを勧めたいです。父子家庭でやっていくことは、「名義上、家庭をつくっている人」から抜け出して、本当の自分の人生を見直すチャンスだと思うんですよ。
行政に対しては、「使える施策」を求めたいですね。ぼくが住んでいる広島には「トワイライト・ステイ制度」というのがあります。父親の帰りが遅い時、養護施設で子どもの夕食や宿題の面倒をみてくれる。でもたとえばうちの場合、家から20kmも離れているんですよ。小さい子どもがバスや電車を乗り継いで行けるわけがありません。泊まりの出張などのための「ショートステイ制度」も同じで、預かってもらえても通学できなければ意味がありません。こうした制度をつくる時には、当事者の声を聞くなりスタッフに入れるなりして、「使える」ものにしてほしいですね。


2004年8月31日、インタビュー

 

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