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ジェンダー

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2006/08/11
ジェンダーという"めがね"で社会を問い直す


ジェンダーフリー社会とは「人権が尊重される社会」

―――“差別を見抜く力”をもつために必要なことは?

「教育」ですね。子どもの権利を学校の主体とし、子どもの考えを尊重することです。日本は「子どもの権利条約」を批准していますが、学校現場で本当に子ども一人ひとりが尊重されていると言えるでしょうか。「あなたは世界でたったひとつの命なんだよ」と親と教師がしっかり伝えていれば、子どもが人の命を奪うような事件は起きないはずです。自分の命を大事にされていないから、人の命も大事にできないんじゃないでしょうか。
「人権教育」が完全に欠落していると思います。人権教育とは、「人権を大切にしましょう」と“教える”ことではありません。子どもの気持ちをきちんと聞いて、選択肢をたくさん用意するということです。日本はみんなと同じものを押し付ける。人が人としての尊厳を侵されずに生きられる社会とは、ある程度の選択肢がある社会ですよね。女性の人権運動が求めてきたのは、まさに生きる選択肢を広げることでした。男性に比べれば女性の選択肢は圧倒的に少なかったですから。

―――男女が競争ではなく共生するために、何が必要ですか?

ジェンダーフリースペースの本棚「男女共同参画社会」とも言いますが、「ゴミ出しをどっちがするか」などという話にとどまっている限りは本当の意味での男女共同参画を推進することにはならないと思うんですね。家庭のなかで男と女の役割を入れ替えるというレベルでとらえていてはダメ。ひとりになった時でも安心・安全に暮らせる地域社会をどうつくっていくか。それが男女共同参画基本法でいうところの「人権」だととらえています。そのためには男であっても女であっても家庭生活と働くことを大事にしていくということだし、「女だからこうしてはいけない」「男だからこうしなさい」という社会的な慣行を変えていくことが大事なんです。
一人ひとりの能力は違うけれど、誰もが自分の能力や可能性を信じてやりたいことに挑戦できる。それが「人権が尊重される社会」であり、「ジェンダーフリー」なんです。こう説明すれば、反論のしようがないですよね。でも本音の部分ではジェンダーフリーの社会になっていくのが面白くない人たちがいる。グローバル化をどんどん進めて、大企業の利益を守りたいんです。ジェンダーやジェンダーフリーに対するバッシングにはそうした本音がひそんでいます。
でもインターネットの発達で地球はどんどん“小さく”なっていますよね。人権侵害の情報もインターネットを通じて世界中に流されるわけですから、そう簡単に権力者が勝利するとは思えない。せめぎあいですね。

―――グローバルな視点を意識することも大事なんですね。男女の役割を入れ替えることだけではジェンダーフリーな社会にはならないこともわかりました。身の回りから変えていくためにどんなことから始めたらいいでしょうか。

わたしは自宅近くのマンションの一室を借りて、仲間と「女性と子どものスペース」という居場所づくりを始めました。「話したいことがあればいつでも来てください」という場所です。女性議員の方たちにもサポートしてもらっていますが、いずれは自治体にもサポートしてもらおうと考えています。こういう場所が全国的にあることも、男女共同参画を進めるうえで大事なことではないでしょうか。
今は役所に対するバッシングもありますが、「役人はダメだ」と決めつけないことです。わたしの友人には行政と決して癒着せず、緊張関係を保ちながら役所の人々からも信頼を得ていた人がいます。政府や自治体と市民のパートナーシップは欠かせられないものです。
人の死は年齢に関係なく、思っていた以上に早くやってきます。わたしも大事な友人を何人も亡くしています。そういう経験を重ねると、「人は何のために生きるのか」という問いと向き合わざるを得ない。明日死んでしまったら、いくらお金をもっていてもしょうがないということがわかるんです。日本の社会はもっともっと「人は何のために生きるのか」という問いと向き合うべきだと思います。
今、根源的なところで命の尊さが問われている時代だと感じています。言葉を使うか使わないかということに振り回されず、人の命をみんな同じものとして見る「ジェンダー」や「ジェンダーフリー」の原点に帰りたいものです。

―――ありがとうございました。

2005年11月16日インタビュー

本の紹介

 
『知っていますか?ジェンダーと人権一問一答』 『知っていますか?ジェンダーと人権 一問一答』
船橋邦子著 解放出版社発行 1000円+税
『ジェンダーがやって来た』 『ジェンダーがやって来た』
船橋邦子著 木犀社発行 1700円+税
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