ふらっとNOW

暮らし

一覧ページへ

2004/10/22
ともに語り、ともに重い荷を肩からおろそう


自殺防止に取り組んで26年

自殺者は6年連続で3万人を超えている。その7割強が男性で、年代別では40代以上が74%を占める。自ら命を絶つまでに追い詰められた人を、どうしたら救うことができるのだろう。

横田康生さんの写真
国際ビフレンダーズ・大阪 自殺防止センター所長の横田康生さん

自殺防止のため24時間体制で電話相談を受けるNPO法人「国際ビフレンダーズ・大阪 自殺防止センター」には、年間1万8000件、1日約50件の相談がある。「話す相手がいるということが自殺防止の一番大きな力になると思います」と語る横田康生所長。 
「たくさんの相談機関の中で、ここに電話をされるのは気持ちに大小はあっても、死への思いがどこかにある方。死にたいという思いの裏には、必ず生きたいという思いもある。私たちは、チャンスをみて『死にたい気持ちはありませんか』と必ず質問します。死にたいという気持ちを溜め込んでしまうと、どう仕様もなくなってしまうから。解決にはならなくても、聴いてもらって楽になれると気持ちに余裕ができて、自分で考えていく力が戻ってくるんです」
スタッフにとって、自殺を決意した人が「もう少し頑張ってみます」と電話を切る時が何よりもホッとできる時。毎日がこのくり返しだという。
センターで電話を受けるのは、1年半の研修を修了した70人(20~70歳)の相談ボランティアだ。基本は「傾聴(耳と心を傾けること)」と「ビフレンディング(悩んでいる人たちに寄り添って、友だちであり続けるという意)」。友だちのように寄り添い、気持ちを丁寧に聴くだけで、意見は言わない。相談者の言葉の裏にある感情を読み取るのがポイントだそうだ。他に手紙相談や面接相談、訪問などもあり、自殺の決行意志が強いと判断した時には緊急出動もする。

電話など通信イメージ

相談内容の大半を占めるのが心の病で、続いて対人関係や家族・夫婦の問題、経済的問題など。「原因はひとつじゃなくて、いろんな要素が関わりあっている。今は経済的な状況や失業などに絡めて、人間関係が上手くいかなかったり、職場や家庭の中で孤立したりなど、かなり生きにくい状況になっているようです」と横田さん。
年代別で多いのが30~40代。20代では性にまつわる問題が増加していて、全体的に心の内を話しやすい女性の方が多いそうだ。そんな中で意外と少ないのが、自殺が多いとされる50~60代の男性。横田さんは「こういう場で弱音を吐きたくない、頑張らなきゃと自分で重荷を背負わせて生きておられるのじゃないでしょうか」と危惧している。
さらに危険なのは、携帯電話やパソコンの普及で親や大人を通すことなく、予測のつかない関係が進んで実行されるネット自殺。同じ傾向をもった子どもたちが集まると、考え直してみようと止める者もなく、同じ方向へ行ってしまうのだという。
「社会はますます冷たく厳しくなっているように感じます。どんどん人の気持ちが荒れていき、自分のことで精一杯で、人のことまで大事に考えられなくなっている。その延長で自分もどうなってもいいという人が増えているような気がします」

 

気持ちを語り共有して、次の自殺防止へ

また、センターでは、99年頃から自殺遺族からの電話も増え、同じ体験をした人たちと気持ちを分かち合いたいと声が多くなったことから、2000年に「自死遺族の会」を設立。参加者は多い時で20人を超え、遠くは青森、広島などから参加する人もある。
会では思い思いに自分の気持ちを話すだけだが、「こういう場所で早い時期から自分の気持ちをくり返し話すことが大切。自分も早くからこういう場所を知っていたら違っていたと思う」と体験を話す人もあるそうだ。
ビフレンダーズのチラシイメージ 自殺に対する偏見から、オープンにできないことで自分の気持ちと向き合えない人や、なかったこととして気持ちを閉ざしたままの人、また事故や病気で亡くなったことにしたり、中には子どもに出張中だと伝えている人もある。こうした会に参加しようという前向きな人でさえ、大半は家族の自死が受け止められず、心療内科など専門医にかかっているのが現実のようである。
「他で話せる場所がなかった方ばかり。話ししぶっていた人も語り始めるとセキを切ったように話される。これまで感情に蓋をしたままの方が会に参加して、蓋を開いて自分の感情を見つめ、自殺と向き合い、受け入れ、自分の人生を生きていこうと取り組み始められている感じです」
もし自分の周りでいつもと様子が違うなと感じられる人がいたら、「どうしたの」「何かあったの」といった声かけが大切と語る横田さん。「私でよければ、いつでもそばにいて何でも聴くよ」という言葉が命を救うことにつながっていくのだという。
自殺防止を願い、電話相談に耳を傾けて21年になる横田さんからのメッセージだ。
「一人で自分の殻に閉じこもってしまい、耐えるのがいいことなんて思わないでほしい。人間誰しも辛い時があるのですから、時には人に支えてもらうことも決して恥ずかしいことじゃないんです」

(2004年8月インタビュー)

カウンセリングスペース「リブ」
http://www.space-liv.net/

NPO法人「国際ビフレンダーズ・大阪 自殺防止センター」
http://www.spc-osaka.org/

関連キーワード:

一覧ページへ