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多民族共生

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2006/03/10
未来に続く、ほんとうに意味のある国際協力を求めて


やらなきゃいけない事を実行するのみ

3つ目が、総合的な国際協力のコーディネート。山本さんが打ち出した5つの項目について、専門的視点でひとつだけを行うのではなく、すべてを総合的に考えていくシステムが必要というものである。
「医療活動だけでは病院は現地に残らない。継続させるには医者や看護婦を育てなければならず、それには小学校さえない場所に中学や大学までの教育の場が必要になってくる。しかも、国際協力を終え、我々が撤退した後も学校や病院を運営していけるように、現地の人たちに経済力をつけるには、農業や漁業などの産業を安定させることなど、トータルに行えるシステムです」
ただ、これにはかなりの予算が必要で、実践はなかなか難しいようだ。
「私はお金集めは基本的に下手。うちの団体に、よほどお金集めの得意な人が入ってこない限り難しいでしょう」と笑う。

現在、山本さんは日本で医師の派遣会社5社に登録し、数カ月間、派遣医師としていろいろな病院で外来内科医、当直医などをこなす。その報酬や本の印税を、全額NPO法人地球船宇宙号に寄付し、海外での取材や講演活動を続けているのだ。
「スタッフは6000人ともいえるし、私を含めてゼロともいえる」と語る通り、スタッフはすべて無報酬。海外のスタッフを含めると約2倍の数になるそうだ。これまで出版した本は12カ国語に翻訳されているが、そうした翻訳、また写真展開催のための関係者、お絵描きイベントでのビデオカメラ担当者など、専門的な人たちのサポートもすべてボランティアである。

「ほんとうに意味のある国際協力」を徹底的に追求し続けて25年。この人をここまで突き動かすものは、一体何なんだろう。
「息抜きはマージャンや将棋のパソコンゲーム。それと、プレイステーション2のゲームかな」と笑顔で語る山本さんに問うた。「あなたの一番大切なものはなんですか?」
同じ国際医療協力を行う「妻」という答えを期待したのだが、ここでも返ってきたのは国際協力の話だった。
子供たちの写真「法律家・マスコミ人・経済人、教育者などそれぞれ違う分野や立場の人と話すと、同じ日本を見るとしても、自分とは違う方向性でものを見ていて、違う意味での世界の多様性を知ることができる。今まで世界70ヵ国を訪問してきて、各国の違う分野の人と話し、自分とは違う方向性、そして物の考え方の多様性を知ることができたのが面白くてしょうがない。それを本作りや講演などに活かせることです」
山本さんにとって「ほんとうに意味のある国際協力」とは、少年時代から模索し、探し続けてきた「宝物」なのである。それは一生をかけてでも探し出したい宝物・・・。 
「あなたの夢は?と取材でよく聞かれるけれど、私にはそんなモノはない。持続可能な世界をつくるためには、これをやれば終わりというものなんて永久にありません。やらなきゃいけないことが無数にあって、これが足りなかったということに毎日気づく。そのやらなきゃいけないことを、合理的に、机上の空論じゃなく可能な範囲で必ず実行していくことです」
近い将来の目的の一つは、「写真絵本やビデオ映像を日本をはじめ、世界中の小・中学校に副教材として無償で配ること」だ。
(2006年1月17日インタビュー text:上村悦子 写真提供:山本敏晴)

山本敏晴(やまもと としはる)
1965年宮城県仙台市生まれ。医師、医学博士、写真家。
12歳の時、南アフリカ共和国の人種差別問題を目の当たりにして以来、発展途上国を中心に70カ国以上の国を訪問。各地を撮影し、世界中で写真展を行う。2000年よりさまざまな国際協力団体に所属し、医師としして写真家として活動を続けている。03年「世界共通の教科書を作る会」を創設。04年団体名を「宇宙船地球号」に変更。「本当に意味のある国際協力」を求め続け、自ら最前線でそれを実行している。著書に『世界で一番いのちの短い国』(白水社)、『シエラレオネ』(アートン)など。
Eメール info@ets-org.jp URL http://www.ets-org.jp

本の紹介

『世界と恋するおしごと 国際協力のトビラ』
(小学館1680円)

『彼女の夢みたアフガニスタン』
(マガジンハウス1300円)
『アフガニスタンに住む彼女からあなたへ』
(白水社1400円)
『あなたのたいせつなものはなんですか?・・・カンボジアより』
小学館1500円)

 

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