ふらっとNOW

福祉・医療

一覧ページへ

2004/07/01
「性差」に目を向けた医療の取り組み


自分の体と心の声に耳をすませてみる

これまでの話から浮かんでくるのは、自分自身の体や心の問題をとらえられず、不安を抱えて惑っている女性たちの姿である。なぜ、そうなってしまうのだろうか。その女性個人の問題なのだろうか。

熊倉さんは、こう考える。「女性は家庭でも職場でも、人を世話する立場に置かれがちですよね。自分のことは後回しで、周囲もそれが当然だと思っている。だから人を支えるのは上手だけど、自分自身をケアしたり、主体的に考えて決断して動くということには慣れていません。そして体がつらいのに、寝ていると“怠けている”と周囲はもちろん、本人も自分を責めてしまいます。こんなふうに自分の感情や感覚よりも周囲を優先しているうちに、自分がどうしたいのか、何が不安なのかも見えなくなってしまうのではないでしょうか」。また、女性医師を望む女性の思いや女性の受診を促す女性外来の意義も認めつつ、「話を聞いてほしいというだけなら、カウンセラーや助産師、看護師でもいいはず。質の高い医療を求めるなら、女性医師に限定する必要はないでしょう。敢えて女性専用を謳う女性外来や女性医師に何を求めるのかをよく考えてみたほうがいい。女性の医師だから女性の気持ちを理解してくれるはずというのは幻想だと思います」と話す。

熊倉さん自身、数年にわたって、動悸や発汗、気分が落ちこむといった更年期の症状に苦しんだ。「当時は社会人学生として大学に通っていたので、修論のテーマを更年期にして色々調べました。そのうち自分の症状も客観的に見て、面白がれるようになりました。知識が増え、考えを深めていく過程で、更年期を受け入れて折り合いをつけられるようになったんだと思います」。若さや美しさに固執していると、年齢に応じて変化する自分の体に対して否定的になってしまう。自分自身を受け入れられないことが、心身にストレスを及ぼす。悪循環である。

土井医師は、「何となく調子が悪いんですけど、と言われても困ってしまいます。自分の体を丸投げして悪いところを探してもらおうというのではなく、何を言いたくて、どこを診てほしいのかをある程度は考えてきてもらうといいですね。ただ、逆に言えば、今までは病気でなければ受診できなかったということ。言いやすい場が初めてできたということでさまざまな人が来られているのだと思います。これから医療側と患者さんたちがお互いに学びあっていいものをつくっていきたいですね」。

横浜医療センターの女性外来では、摂食障害や更年期などの自助グループや行政と連携し、精神面でのフォローが必要だと思われる人に紹介している。同じ経験をした人たちと支え合うなかで回復していくことも多いからだ。「医療の範疇は超えたくない。問題の根っこを見つけ、解決の方法を考えるところまでが私たちの役割です。外科という自分の専門からは離れているけれど、これは医療者として基本的な仕事だと考えています」。今後は外部とのネットワークをさらに広げると同時に、心理相談や骨盤体操などの専門資格をもつ看護師の配置を予定している。



理想的な医療への突破口に

男女の性差を考慮した医療への関心は、医学の世界でも高まりつつある。全国各地での女性専用外来設置や、性差医療に関心をもつ医師たちのネットワークの広がりなどである。精神科医と婦人科医が初めて手を結んだ「月経関連精神医学会」も設立された。今後は医学教育の場でも性差医療を取り上げていく必要があるだろう。一方で、受診する側としては、日頃から自分の心身に関心をもつことが大切だ。不快な症状が出た時には、まず生活を見直してみるのがいいかもしれない。せっかく芽生えた性差への視点を生かせるかどうかは受診者の姿勢にもかかっている。

本来、すべての患者が性別、年齢、ライフスタイルなどを考慮した医療を安心できる環境のなかで受けられるのが理想である。女性専用外来がその端緒となることを望みたい。

関連キーワード:

一覧ページへ