ふらっと 人権情報ネットワーク

ふらっと相談室(Q&A)



14.カミングアウトはするべき?

Q1:生活全般を女性に移行して7年目です。職場でも元男性だとは隠してOLをしています。女友達も増えて、満足な日々です。ただ、元の性別を秘密にしていることで、例えば家でのオモシロイ出来事を話せないなどのジレンマもあります。どうしても表面的な話題でしか話せず、深いつき合いができないのです。できることなら、みんなにすべてをわかってもらった上でつき合ってほしいです。でも元男性だとわかったとたん、今まで通りの関係ではいられなくならないかという不安もぬぐえません。カミングアウトすべきかどうか迷っています。

Q2:来月に高校時代のクラスの同窓会があります。在学中は男子でしたが、卒業後に性別移行して今は女性として生きています。もはや男装はできませんが、懐かしい級友にも会いたいです。行っていいものでしょうか。

Q3:自分はやはり女性であるより男性でいたいので少しずつ性別移行を進めています。波長の合う女友達とは今は仲良くやっていますが、この先、私の様子がもっと変われば不審がられるかもしれません。できればこんな私の真実をわかってもらった上で、ずっと友人づきあいが出来ればいいのですが...。

まず、基本的にカミングアウトは絶対にしなければならないものではありません。日本では正直が美徳として尊ばれていますが、それも時と場合によります。むやみに自分に不利な情報を開示する義務はないのです。
自己開示することで、周囲との新たな人間関係が発展し、それによって自分自身もまた新しい存在に変わっていける。そういうメリットを感じられるときにのみ、カミングアウトすればよいのです。どのような種類のカミングアウトであれ、それそのものが正しい行為であり、だからするのではなくて、新しい自分・新しい関係をめざすという、当人の自己決定がいちばん重要なのだということを忘れてはなりません。
また、カミングアウトした人々を勇気ある決断などと必要以上に持ち上げて、半ば英雄視する風潮も考えものです。そもそもセクシュアルマイノリティが逸脱者として社会から排除されがちなのは多数派による基準のせいです。カミングアウトというものが、その自己開示が結果的にカミングアウトになってしまうような社会構造によって、当事者がさせられてしまっているものだという認識も必要でしょう。
なお、「カミングアウト」とは直接には「秘密を打ち明けること」のような意味で使われていますが、本来この言葉は、その秘密が原因で心理的に、場合によっては物理的にも引きこもった状態だったのが、本人自身が価値観を展開し自分自身を認められるようになって、他者とのつながりの場に出てくるという含意が込められています。したがって、すべてのカミングアウトの基礎は、本人がまず自分自身のありのままを納得して認める、自己肯定にあると言えるでしょう。

Q1のケースは、周囲との人間関係が相応に熟していると読めますので、勇気を出して真実を告げることで、ご本人にとってよりよい結果が得られる可能性も高いです。万一、理解が得られないようなリスクもよくご検討された上で、タイミングその他の計画を練られるとよいのではないでしょうか。

Q2は、同窓会への出席イコール元同級生へのカミングアウトとなってしまうわけですね。この先も同窓会の案内状で欠席にマルをつけ続けるのは淋しいというのも一面の真理です。当時の級友との関係性にもよりますが、思い切って行ってみることは選択肢のひとつです。うまくいけば望まない性別で過ごした日々の思いが癒される体験になるかもしれません。

Q3は、カミングアウトによって相手との今後の関係における性別が現在とは変わるのが、一つめの事例とは異なる点です。相手がどのくらい柔軟に視点の転換ができるかがポイントとなってくるでしょう。うまくいかない場合のダメージも大きいパターンですから、慎重に見極める必要があります。

3事例を比較してもわかりますが、本人が性別移行の前か後か、カミングアウトする相手が本人の性別移行の前後いずれの知り合いなのかによって、様相は異なってきます。
また、社会全般に広く存する性別二分体制との齟齬(そご)が日常的に発生するトランスジェンダーにとっては、例えば同性愛者の場合と比較しても、カミングアウトの意味合いが違ってくることも理解しておく必要はあります。