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IT革命はチャレンジドにとっても大きなチャンス

2001/05/02


この一年で『IT革命』という言葉が急速に広まりました。しかし、IT(情報技術)とは一体、何を意味するのでしょうか。そして私たちにどんなメリットがあるのでしょうか。’91年、「チャレンジド(障害のある人)を納税者にできる日本」を合言葉に設立されたプロップ・ステーションは、当時からコンピューターとネットワークを活動の中心に据えてきた、いわば『IT革命』の先駆者。その立場から、代表の竹中ナミさんにITの意義やこれから目指すべき方向などを2回にわたって伺います。

「健常者」と同じ土俵に立てる時代になった

10年前、プロップ・ステーションの設立にあたって、重度の障害がある人たちにアンケートをとりました。すると「コンピューターを使って、在宅で仕事をしたい」という声がたくさん挙がってきたんです。まだようやくパソコン通信が一部の人たちの間で始まったばかりという時代だったので、とても驚きました。同時に彼らがコンピューターに寄せる熱い期待が伝わってきて、「これからコンピューターがチャレンジドにとって五感や脳の一部になっていくんやろな」と予感しました。今、まさにそれに近い状況ですね。ドッグイヤーと言われるほどのスピードでコンピューターが発達し、どんどん日常の道具になってきました。

そのアンケートでは、4つの課題が明らかになりました。まず、「自分たちのような重度のチャレンジドがコンピューターを学ぶ場所がない」、そして「仮に友達から教わったとしても、その技術がプロとして通用するのかどうかという”評価のシステム”がない」、さらに「”君、なかなかやるじゃない”と誰かが言ってくれたとしても、それが仕事には結びつかない」、最後に「万が一、仕事があったとしても通勤は非常に困難。在宅で働きたい」という、いわば四重の壁です。
この「勉強」「評価」「仕事」「在宅」という4つの言葉をキーワードに、私たちはチャレンジドと一緒に試行錯誤を重ねてきました。そしてこの10年ですべてクリアできました。けれど、それはあくまでもプロップ・ステーションの実験プラントとしてであって、社会全体に広まっていくのは、まさにこれからだと思います。
今、盛んに『IT革命』という言葉が使われていますが、ITは何のために使われるべきなのかということを国全体で十分に議論されなければならないし、それを進めていくための法律という”背骨”も入れなければいけない。それが今年なのかな、と考えています。

ここ数年で『仕事』を取り巻く状況はものすごく変化しましたよね。年功序列や終身雇用制が見直されて、実績で給料や昇進が決まる実力主義が浸透してきました。一方で、失業率も上がっています。社会全体で仕事や雇用がとても厳しいということは、チャレンジドにとってはさらに厳しいと言えるかもしれません。
でも私は、実力主義になったがゆえに、コンピューターという道具を使えば障害のない人と同じ土俵に上がれるというメリットが出てきたと思ってるんですよ。今、この時期を「よし、チャンスや」と考えるか、「余計にしんどくなってきたぞ」と思うか。本人の意識次第でチャンスにも後退にもなると思いますね。物事をどうとらえるかによって、状況は自分で変えることができるんです。
たとえばリストラ。日本ではリストラといえば「仕事も生活も失う」というようなイメージがありますが、アメリカでは転職を意味するんですよ。転職やキャリアアップが当り前という国では、会社がつぶれてもサッと気持ちを切り替えて、次の会社へとアタックしていきます。そのための準備として、常日頃から仕事はもちろん人間性を磨く努力も怠りません。  
日本のビジネス界がアメリカに近づきつつある今、新しい勉強や、今どんな仕事が発生しているのかという世の中の流れを学び続けていくことによって、チャレンジドもアタックできるわけじゃないですか。そういう意識を持って、今の時期をジャンピングボードにしてほしいと願ってるんです。


特にオンラインでの仕事は、結果がすべて。そういう意味では文字通り同じ土俵での勝負なんでしょうね。ただ、障害があるがゆえに、グレードはまったく同じでもスピードや量では負けてしまう。そういう時にプロップ・ステーションのようなコーディネート機関が、ふたりでひとり分の仕事を請け負うというような仕組みをつくればいいわけです。発注する側にとっては、納期と値段とグレードが合えば、何人でやろうが構わないのですから。障害の有無に限らず、在宅やフリーで働く人が多いIT関連の分野では、今後このようなシステムが定着していくのではないでしょうか。