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障害者

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2004/12/10
障害のある人の仕事に喜びとやりがいを


「お金儲け」は目的ではなく、必要条件

―――「月給1万円」から脱却するために、具体的にはどんなことを提案されているんですか?

何万円も給料を出せるだけの利益をあげられる仕事は、なかなかないのが現実です。まず、「健常者」と競争し、勝たなくてはなりませんよね。それが難しい。
ただ、発想を転換すれば、決して無理ではありません。地域の人たちに何らかのサービスを提供することによって、作業所が地域に必要な存在であることを認めてもらうことです。
企業の論理といえば「金儲け」が浮かぶかもしれませんが、それだけではないんです。ヤマト運輸も宅急便という「それまでになかったサービス」を提供することによってお客様に喜ばれ、結果として会社が成長してきました。「お金儲けは汚い」「福祉は金儲けとは無縁のもの」と考える福祉関係者は少なくありません。確かに、作業所はお金儲けのための施設ではありませんが、当事者や親御さんが安心して通い続けるためにはお金が必要です。お金儲けは目的ではなく、必要条件です。ですから「お金儲けは汚い」という発想を切り替えていただきたい。パワーアップセミナーでは、まずこのことからお話します。

―――これまでの小規模作業所について、経済的に厳しいということの他にどんな課題があったと思われますか?

パン焼き作業風景の写真 作業所のなかだけで「完結」してしまうことでしょうか。仕事も食事もレクリエーションも、すべて作業所が担っているのがほとんどだと思います。特に都会の作業所はマンションの一室を借りてやっているところも多く、中に入ってしまえば外部との接点がまったくありません。
けれども、「働く」「暮らす」さらにレクリエーションなどによって「暮らしの質を高める」のすべてを作業所が担っていることで、作業所の負担が大きいと同時に地域の人たちとの間に距離ができてしまっています。まず、働く場所と暮らす場所を離せば、通勤や買い物などを通じてさまざまな人と接点ができます。余暇を楽しむ時にはボランティアの応援を受ければいい。仕事で関わる人、暮らしの部分を支える人、余暇の楽しみを応援する人と、役割を分担すれば障害のある人たちの暮らしの質も上がっていくんじゃないかと、私は考えています。

 

「意識の壁」が一番大きい

―――仕事と暮らしを分ける、余暇を楽しんでストレスを発散したり休息をとる、というのは、考えてみればごく当たり前のことですね。「このままではいけない」と危機感をもった作業所では、どんな取り組みをされているのですか?

最近のパワーアップセミナーでは、「サービス業をやりたい」というところが増えてきています。買い物代行や宅配、新聞配達など、地域のなかに溶け込んでやれる仕事をしたいという声が自然に出てきていますね。四国ではギャラリーを運営しているところがありますし、京都の舞鶴では精神障害のある人たちの作業所がフレンチレストランを開業して成功しています。京都のホテルで総料理長を務めた人を招いた、本格的なレストランです。オープンして2年、3万人のお客さんが来られたそうです。当初は地域の人たちから強硬な反対をされたようですが、試食会を開くなど積極的に地域に働きかけ、今ではすっかり受け入れられているみたいですね。大阪では受け継ぐ人のいない銭湯を借り上げ、自分たちで営業しているところもあります。思い切って発想を変えれば、さまざまなアイディアが出てくるものだと感心します。
私たちはセミナーを通じて経営のお手伝いをすると同時に、こうした試みをされている人たちを広く紹介するのも自分たちの役割だと考えています。

―――聞いているだけで楽しくなりますね。多くの方がそうありたいと望んでいらっしゃると思うのですが、現実にはまだまだ一般的ではないようです。「1万円からの脱却」に共感しても、実際には踏み出せないとすれば、一番の壁は何でしょうか。

パワーアップセミナーの参加者は、作業所でリーダーあるいは準リーダーの役割を果たしている人たちです。受講すると、みなさん「なるほど」と思う。しかしセミナーを受けていない地域の人たちに、それをどう伝えるか。作業所の方向を転換するのは、一人ではできません。みんなに考えを切り替えてもらえるかどうかが重要なポイントだし、大きな壁なんですよ。
長くやってきた先輩スタッフもいるでしょうし、「今までのやり方でいいんだ」という人もいるでしょう。「これ以上、苦労したくない」という親御さんも。そういった人たちを説得して切り替えていくのは大変なことです。逆に言えば、切り替えがうまくいったところは、上手にみんなの気持ちを乗せていますね。

―――「核」になる人のリーダーシップにかかっているんですね。

作業風景のイメージ写真 ただ、女性が多く、リーダーシップを発揮して進めることがしにくいという人もいて、苦労されています。というのも、親御さんであったり、結婚していてご主人の理解のうえで手伝っているという人たちが多いんですね。そういう立場の人が経営感覚やリーダーシップを発揮しなければならず、苦労が多いようです。
また、支援者たちが運営している作業所は大胆な発想で打って出たりしますが、親御さんたちはご自分のお子さんのことを考えると大胆にはなりにくい。「親の会でパン屋さんをやりたい」と言ってこられた方に話を聞いてみると、自分の子どものために何百万も出資するということも時々あります。「店を出した後で、お子さんが『やっぱりパン屋は嫌だ』と言い出したら、大丈夫ですか?」とお話しますが…。子どもは親の思い通りにはならないものですから。

―――親の思い…切ないですね。

ええ。障害のあるお子さんを抱いたお母さんとおばあさんが来られたことがあります。お子さんはまだ1、2歳でした。おばあさんが「障害のある孫を育てていく娘が不憫だ」と泣きながらおっしゃるんですね。考えれば考えるほど、いろんなことが心配になってしまうようでした。「この先、この子はどうなるのだろう」と思いつめていたところに、ヤマト運輸が障害者の人たちとパン屋さんをやっているということを知って、訪ねて来られたんです。
「これまでもいい方向に進んできました。20年後にはもっとよくなっているはずですから、今から心配しないでください」とお話しました。実際、これからはもっと希望がもてるんじゃないかと私は思っているんですよ。

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