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ジェンダー

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2005/07/22
家庭科は「衣食住」を通して考えることのできる暮らしの哲学



調理、裁縫のイメージが強かった家庭科だが、男女共修になって学習内容は大幅に変わった。かつての家事作法のレベルを超えて、「なぜ性別役割分業が生じたのか」、「高齢化社会をどう生きるか」、「消費者意識をどう高めるか」など、家族や保育、住居、調理、被服などから、悪徳商法やカード破産などの消費者問題、高齢者介護、環境問題まで多岐にわたっている。また、学習方法も、調理や裁縫の実習、農業体験に加え、ビデオを観たり新聞を読んでの問題点のレポート作成、討論、自主研究などと多彩だ。

 

いろんな生き方があっていい

南野さんイメージ写真 特に大きく変わったのは、家族の領域。家族はどうあるべきかではなく、生徒たちが「生きる」ということを考えられるように、離婚やステップファミリーなどいろんな家族形態、多様な家族像が出ています。結婚して子どもができたら、それが家族というイメージをもってる子が多いんですが、実際の家族っていうのは、常に変化していく存在。離婚もあれば、死別もあり、再婚で血のつながりのない家族が増えたりと、人生はどう変遷していくかわからない。僕が生徒に伝えたいのは、仮に政府のいう標準家族からはずれても、失敗でも間違いでも、要領が悪いんでも、上でも下でもないんだということ。いろんな生き方があって、自分の形もひとつの生き方だと常に肯定的にとらえてほしいという思いです。

保育については、「愛と性」は保健体育の分野で、家庭科では「妊娠、出産、育児」を中心に扱うようになっていますが、僕は愛や性を抜きにして妊娠や出産を学んでもしかたないと思うので、性の問題も取り上げます。今増えているりん病やクラミジアなどの性感染症の問題から、インターセックスや、性同一性障害・ホモセクシャルなど性的指向のことまで。それから妊娠、出産へと教えています。性に関しては差別の対象になったり、偏見に満ちた捉え方をしていることが多いんです。差別しながら、自分にそういう指向があれば自分で二重に差別する子が出ることになり、開放してあげなければ一生変に背負っていくでしょうからね。
生徒から、「彼女が妊娠したかもしれない」、「性感染症にかかってるようだ」といった相談を受けることもあります。

ジェンダーの問題は、特別にひとつの授業で取り上げると限定的になってしまうので、全体の授業のなかで薄く広く扱うようにしています。高齢者介護が女性に偏ってるなど、すべての問題がジェンダーに関わっていますから。「働く」ことでも、家事労働と過労死をタイアップさせながら、賃金の問題もいっしょに教えていく。その時の文化の違いで何が金になるかは変わるけれども、結局はみんな生きるために働いているのに、家事労働より金になる労働の方が立場的に上になったり、そのなかでも過労死はほとんどが男性であることなど。また、性暴力や売買春での偏りなど、教科書に出てなくてもあちこちで取り上げる。生徒の反応はとても熱心です。

 

「自分はどう生きるか」を考える教科

イメージ写真 恋愛にしろ、食べ物の添加物の問題にしても、「自分はどうだろう」「君はどうするの」という自分の生活につながるのが家庭科。英語や数学など他の教科ではない点です。
それと同時に、学校で習ったことを家に持ち帰れる教科でもある。住居の授業では、たまたま引っ越しをした子が自分の体験を10数枚のレポートにして提出したことがありました。前の家との違いや新しい部屋の使い方、引っ越し費用や新しい家を決めた理由などを親に聞いてまとめてるんです。普通の高校生なら親の引っ越しについていくだけでしょうけど、自分も関わることは生きる力につながっていきます。
以前、性の問題でも「初体験の話を親から聞けたら面白いね」と投げかけたところ、実際に母親に聞いてみた子がいました。そのお母さんとたまたまお会いしたら、「先生、こんな授業をしたでしょう。恥ずかしかったけど、正直に話しました。機会があれば伝えたいことだったんです」と言われて、「ああ、よかったなあ」と思いましたね。

特に調理実習では、これまであまり料理をしなかった子が学校でやったことで、家でも作るようになったというのはよく聞きます。夏休みに家族の食事を作ろうという宿題を出すと、結構みんな一生懸命やっているようです。料理もただ食べるだけでなく、どうやって作ったのかに興味をもち、一緒に作ったり、材料を買いにいって、それはどこから来たものなのかと考えていくと、自分の生活を変えていく力になる。授業はあくまでもきっかけ作りで、後は本人が動くかどうか。頭で考えるだけじゃなく、モノや人と関わるなかで身につけていく知識は、具体的な行動につながります。

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