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特集



団塊世代の介護とどう向き合うか NPO法人アラジン 渡辺道代さん

2014/10/27


国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議では毎年様々な切り口で人権をテーマにした「プレ講座」を開講している。2014年度のテーマは「未来社会と人権」。今回から講座の様子を報告する。

団塊世代の介護「介護とどう向き合うか」 NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン副理事長 渡辺道代さん

増加する一方の高齢者人口。団塊世代が75歳になる2025年頃にはピークを迎え、当然、要介護者数も増加すると推測される。そうした状況の中、家族形態は大きく変化し、介護者も10代の若者から80代の高齢者までと多様な世代に渡っている。こういう時代に介護とどう向き合えばいいのだろう。
※ケアラー/高齢者や障害者などケアが必要な家族や知人のケアする人のこと。

多様化するケアラー世代

 これまでケアラー(介護者)の支援活動に関わってきて痛感するのは、介護者になるということが、昔の流れのままに日常生活で誰でもできる当たり前のこととして捉えられていること。しかし、現在は急速に高齢化が進み、介護スキルもかなりアップして、いい介護をしようと思うとハードルが高くなっているのが現実です。

 そういう中で、誰がいつ介護者になるか分かりません。今や、介護者は中高年だけでなく、10~20代の若者から70 ~80代の高齢者までと多様な世代に渡っています。そのため各世代がさまざまな負担や価値観の変化を体験しており、あらゆる介護者に対して支援が求められています。

 今、日本は世界のどの国も経験したことのない高齢社会を迎えていますが、家族形態も大きく変わり、祖父母と暮らす三世代世帯が減少して、逆に親と未婚の子の世帯、夫婦のみの世帯が増加しています。こうした世帯の変化を踏まえ、日本はもう介護を家族に頼る時代ではないのではないかという意見も出ています。

 また、介護者と介護される人との関係も、多いのは夫婦間の介護ですが、昔のように同居する嫁が親を看るのではなく、息子が離職したり、嫁いでいる娘が実家に帰って介護する実子介護に変わりつつあります。同時に男性介護者もじわじわ増え、今では全体の3分の1を占めています。 

対策の進まない介護離職

 そうした介護者が抱える大きな問題として介護離職があげられます。介護者の年齢層は圧倒的に40~60代と働き盛りの世代が多く、毎年年間10万人の介護離職者がいると言われています。性別では女性が多くなっています。

 対策として介護休暇制度などがありますが、介護の場合、対象者がはっきりしにくく、休暇期間の正確な数字が出にくいこと、また会社に申請しくいことなどの原因で取りにくいのが現状です。

 ストレスを抱えずに適切な介護を持続するためには、介護に関する情報や技術の修得が必要です。介護者支援のための「地域支援事業」などもありますが、各自治体任せで、現実には今ひとつ充実していないようです。

 さらに、介護者が抱える問題として深刻なのが虐待です。介護保険が始まってからも虐待や心中事件、介護殺人は減ることはなく、虐待の要因としては介護疲れや虐待者の性格や疾病・障害、介護の知識不足、経済的な問題などがあげられます。また、介護によって孤立状態になることも多く、孤立死や孤独死も大きな課題となっています。

良い介護をしようと一人で頑張らない

 今のような現状で、介護とどう向き合えばいいのでしょう。

 介護を担う時、陥りやすいのが介護に巻き込まれること。良い介護をしようと頑張ると介護が過酷になっていき、要介護者も常に頼られ、深みにはまってしまいがちです。

 そうならないために、私たちがお勧めするのは介護離職は避けたほうがいいということ。介護のために自分の人生をすべて投げ出すのは良策ではありません。介護から離れる場所があれば気分転換になりますし、自分自身の生きがいや経済的な安定、社会との関係性を保つことに大きな意味があると考えます。

 もう一つは、介護は一人ではやらないこと。近隣や親せき、友人など、できるだけサポートを頼んで、少しでも余裕を持つことが大切です。

 また、完璧を求めないこと。介護は一生懸命になってしまいがち。少し手を抜くことも必要です。そして、できるだけ話せる人を確保して相談をすること。自分の想いを吐き出すことが大事で、気持ちを共感してもらうことはプラスの経験となります。

 また、自分自身の体調や感情など心身の状況にも気をつけたい。介護うつは全体の2~3割と言われ、介護者にはかなりの負荷がかかっています。気づかないうちにストレスがたまっていて、自分が思ってるほど余裕はないもの。介護をすることは当たり前のことではないのです。

 近い将来、多くの人にとって介護は避けられない現実です。私たちは自分がどういう介護を受けたいのか、介護が必要になった時どう生きるのか準備をしておくことも重要です。

 一方、介護をすることは大変でも、介護を逃げてしまうと後に悔いが残ります。介護は大変でも後で振り返ると、いろんなことをゆっくり話せたとか、密度の濃い時間を過ごせてよかったということがあります。

 仕事などやれることはやって、どうしたら最期の時を大事にできるのか、何が悔いのない介護なのかを考えながら関わっていく、そんな介護を楽しめる介護者になることが大事なのではないでしょうか。 



●アラジン
「介護者への直接的なケアやサポートの仕組みづくり」「社会的に孤立しがちな介護者を社会につなぐ仕組みづくり」をキーワードに活動するNPO法人。活動内容としては、地域での介護者の孤立を防ぐ取り組みとして、介護者が気軽に相談できる「相談・援助事業」や介護者を支える市民サポーターの育成などを行う「人材養成事業」、介護者のコミュニティづくりを行政と共同で行う「地域支援授業」、それらをネットワーク化する「ネットワーク推進事業」などを進めている。代表の牧野史子氏によって2000年に設立。

●国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
同会議では2014年11月20日までプレ講座を開講している。今年度のテーマは「未来社会と人権」。講座のチラシはこちらから。