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2019プレ講座

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2019/10/16
沖縄の基地反対運動を取り上げる本土メディア 斉加尚代さん


国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議では毎年様々な切り口で人権をテーマにした「プレ講座」を開講している。2019年度のプレ講座では、「社会的マイノリティに向けられるバッシングを考える」をテーマに、研究者や当事者に講義していただく。連続講座の様子を報告する。

沖縄の基地反対運動を取り上げる本土メディア 斉加尚代さん

関西のメディアが沖縄を取材する理由

 私は1989年から毎日放送報道局の記者として、さまざまな現場で取材をしてきました。2015年からは『映像』というドキュメンタリー番組の専属ディレクターとして番組を制作しています。

 特に沖縄を取り上げた番組を多く制作してきました。たとえば2015年9月に放送された『映像'15 なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち』では、沖縄でもっとも古い新聞社である琉球新報の記者たちを取材しました。当時、まだ埋め立てが進んでいなかった名護市辺野古で取材する記者たちに40日間、密着しました。

 その1年後、再び沖縄に入って取材をします。これは『映像'17 沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔』という番組になり、2017年1月に放送されました。

「関西のメディアなのに、なぜ沖縄を取材するのか」と、よく聞かれます。実はどちらも大阪との関わりがあります。 『なぜペンをとるのか』で沖縄の新聞社を密着取材した理由は、大阪が生んだ人気作家、百田尚樹さんの発言がきっかけでした。百田さんは2015年、自民党の若手国会議員たちの勉強会で、「沖縄のふたつの新聞社はつぶさなあかん」と発言したことが報道されました。政治の世界で特定のメディアをつぶせと公言される。そうした政治圧力にさらされた記者たちはどういう思いで県民と向き合っているのかを伝えたいと考えました。

木霊のように拡散していくデマ

『さまよう木霊』は、2016年10月に沖縄北部に派遣された大阪府警機動隊員による差別発言に端を発しています。派遣されたのは米軍北部訓練場、正式名をジャングル戦闘訓練センターといい、ジャングルでのゲリラ戦を想定した訓練場です。沖縄北部の国頭村と東村にまたがる広大な敷地が使われているのですが、そこには住民もいます。新しく建設された米軍のヘリパッドに囲まれるようにして暮らし、日々、轟音や事故の危険にさらされています。

 大阪府警機動隊員の差別発言は、ゲート前で建設に反対していた人たちに対して発せられました。「土人」発言に対しては、「不適切だった」として当時の松井知事が謝罪をしました。しかし言葉を続けて、「混乱を引き起こしているのは基地反対運動をやっている人たちで、あちらも暴力的ではないか。どっちもどっちだ」という意味のことをおっしゃったのです。

 ほかにも「差別的な発言ではない」など機動隊員を擁護するような発言が国会議員をはじめ、何人もの政治家から出されました。すると驚いたことに視聴者からの意見の8割近くが「基地反対派のほうが暴力的だ、なぜそれを報道しないのか」といった内容になったのです。現地で取材してきた私たちに対して、「ネットで調べろ。ネットを見ればわかる」といってくる視聴者も相次ぎました。メールに添付されているアドレスをクリックすると、基地反対運動をしている人たちや住民の人たちと機動隊員がぶつかり合う場面が出てきます。こうした場面が次々と「報道されない真実」というタイトルで出てきました。

 私がネット社会の現状を強烈に感じたのは、この2016年です。この頃から「ネットで調べろ」と言われることが多くなりました。現地で取材をしてきた私たちに対して、なぜそんなことを言ってくるのだろうと驚き、困惑していたのですが、ネットで「報道されない真実」として次々にアップされる動画を観て、ネットのなかにこそ真実があると思い込むようになっていくのだとわかりました。

 大阪府警機動隊員の差別発言をマスメディアは批判しました。すると何人もの政治家が「どっちもどっちだ」とメディアに対して批判する。松井さんはMBSに対して「機動隊員の顔をさらした」と社名も挙げて批判しました。そうした政治家や首長の言動を受けて、MBSにたくさんの批判的な意見がきたのだと思います。番組タイトルの「さまよう木霊」には、山々に反響する「木霊」のようにネットやテレビをたどって拡散していくデマのイメージをなぞらえました。いったん拡散したデマは、後でいくら撤回や謝罪をしても完全には消せません。

フェイクニュースの発信元を調べてみると

 さらに広がっていったのが「沖縄デマ」、フェイクニュースでした。「基地反対運動をやっている人たちは日当をもらっている」「沖縄県民ではない」といった内容です。それが日を追うごとに増えていく。これには本当に驚きました。沖縄出身の作業療法士の男性は、ゲート前に座り込みをするようになると顔を特定され、動画があげられ、「過激派だ」というデマが流されるようになりました。勤務先には「過激派を勤務させていいのか」という匿名の脅しの手紙が届いたそうです。もちろん解雇されるようなことはありませんでしたが、説明するのにずいぶん時間をとられたそうです。

 ほかにも、医療従事者を名乗る男性から「救急車が基地反対派に止められた」という情報が発信されました。しかしこの情報は地元消防本部の署長によって「妨害行為はなかった」と否定されました。

 この件は「救急車デマ」と呼ばれ、地元の人たちは「こんな嘘が広まるわけがない」と、あまり意に介していませんでした。けれどネット空間ではデコボコになった救急車に音声が被せられたりして、「基地反対派は過激なグループである」という根拠となる情報としてどんどん広まっていったのです。まさに「火のないところに煙は立つ」状態でした。

 そしてついには東京の地上波の局が「救急車デマ」を鵜呑みにして報道する事態となりました。これは放送史の汚点であり、同じ放送の仲間として検証して伝える必要があると考えました。

 まず、最初に動画をアップした男性を探して電話取材をしました。すると「人から聞いた話だった」と説明されました。「事実かどうかを確認したのか」と尋ねると、「確認はしていない。誰から聞いたかは言えない。反省している」と言うのです。この人は大きな病院の看護士さんで、東日本大震災の被災地にも支援に行かれたそうです。そうした社会的な活動もしてきた人がこうしたデマをうっかり流してしまうのです。

 とはいえ、この人は自分の流した情報がデマだと認め、撤回しました。しかし今も「事実だ」と言い続けている人もいます。私たちが取材したところ、この人は基地反対派の人たちとトラブルを抱えていたことがわかりました。暴力行為で警察の取り調べを受けたこともあり、基地反対運動に対して悪感情をもっているという背景が見えてきました。しかしこうしたことは検証されず、基地建設を推進する勢力の人たちによって持ち上げられてしまうという現象も起きています。

 ネット炎上を利用する人もいます。『沖縄さまよう木霊』を放送した後、「MBSは偏向報道だ」とさかんにネット上で発言する大阪市会議員がいました。うちの後輩がその議員に会った際、「なぜあんな発信をするのですか」と訊くと、「目立ちたかったんです。この話題に食いつけば、自分が目立つから」とはっきりおっしゃったと聞きました。議員の立場で特定のメディアを攻撃したのは、自分が目立ちたいだけだったのかと唖然としました。こうしたことが横行しているのが今のネット社会です。

 また、沖縄での基地反対運動に対して、関西や本土から「座り込みは違法行為だ」と指摘する人は少なくありません。確かに実力行使ですが、反対派の人たちにとっては最後の手段です。沖縄の人たちは、知事選では基地建設反対の知事を選び、国政選挙でも基地建設反対を表明する国会議員を選び・・・と、民主的な手段で建設に反対する意思を示してきました。それを無視し続けているのは、現在の政権です。住民の意向を無視し、強権的に辺野古の埋め立てや高江のヘリパット建設を続ける政権に対抗するために最後に残された抵抗の手段です。これを奪うことは、抵抗の声を挙げることを奪うのに等しいと私は考えています。

バッシングの背景にある2つの理由

 こうしてさまざまな政治的圧力や攻撃、バッシングを取材するなかで、バッシングの背景には2つの大きな理由があると考えるようになりました。ひとつは「ビジネス」です。たとえば保守系といわれる論壇誌が一定の支持を集めています。2016年に保守系雑誌として登場した『月刊Hanada』は毎号6万部は売れているそうです。花田紀凱編集長はかつて『週刊文春』の編集長として名を馳せた人です。

『月刊Hanada』は安倍政権支持を表明し、政権に厳しい論陣を張るメディアを「反日」という表現を使って批判します。特に朝日新聞に対しては「反日メディアの代表格」として扱う姿勢が目立ちます。

 花田編集長にインタビューし、なぜ朝日新聞へのバッシングが際立っているのかを聞きました。するとこんな答えが返ってきたのです。

「たとえば毎日新聞は"弱い"んですよね。部数が圧倒的に少ないし。毎日じゃ(バッシングしても)売れない。やっぱり朝日新聞でないと」

 つまり、朝日新聞を叩けば売れるということです。特定のメディアをバッシングすることが、ビジネスになるのです。  バッシングの背景にあるもうひとつは、政治目的です。私は、たとえばインターネット上で誰が多数派をとるかという競争がなされているのではないかという仮説を立ててみました。競争のなかで、誰が多数派をとるか、あるいは今、多数に支持される言論は何かということが見えてくると、そこになびいていく人たちがいます。その結果、政治家をはじめ権力をもつ側が何も言わずとも、人々が互いを監視したり抑圧したりする空気----同調圧力を自ら高めていくような状況が生まれるのではないかと。

 最近は特に、「あいつは敵だ」「基地反対派は過激だ」といった言説が一方的に流れてしまうと、攻撃的な感情を増幅させ、差別意識とつながっているデマやフェイクがとても拡散されやすいのを感じます。

沖縄からの「問い」に「自分の問題」として向き合う

 私たちが「本土メディア」として沖縄を取り上げる理由について、あらためてお話ししたいと思います。

 戦後、27年間にわたって沖縄は米軍の占領下にあり、憲法のない暮らしが続いていました。1972年、沖縄は日本に復帰します。沖縄の人々は「これからは同じ日本人として基本的人権が保障された、平和で平等な暮らしが始まる」と思われたでしょう。しかし現実には国内面積の0.6%である沖縄に日本全体の7割にあたる米軍基地が集中し、事故や事件が絶えません。このことに対して、沖縄の人たちはずっと「不平等だ」と声を挙げ続け、「なぜ沖縄県民だけが米軍基地を背負わなければいけないのですか」と本土の私たちに問いかけてきました。しかし私たち本土の人間は、沖縄の問いかけから目を背け続けているのではないでしょうか。

 沖縄からの問いかけは、沖縄県民だけでは解決できない状況です。この問いを解いていくには日本国民全員が事実に向き合わなければいけないのではないかと考えています。沖縄の基地問題は、沖縄だけの問題ではありません。それが私が沖縄に通って取材するなかで得た皮膚感覚です。

 沖縄で日本政府を見ていると、基本的人権をないがしろにする強権的な政府の姿が浮かび上がってきます。すでに本土でも教育現場に政治的圧力がかかるといった事態が起きています。

 私たちは沖縄からの問いにどう応えるのか。そして自分たちの基本的人権をどう守っていくのか。一人ひとりがこのことに正面から向き合い、考えなければと思っています。

●国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
同会議では2002年から様々な人権課題をテーマに「プレ講座」を開講している。今年度は「社会的マイノリティに向けられるバッシングを考える」をテーマに5回連続で講座がひらかれた。

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