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見えますか?「自分の立っている場所」

井上廣子さん 1998年、大阪トリエンナーレ彫刻部門でデュッセルドルフ市特別賞を受賞してからは、デュッセルドルフ市のゲスト・アーティストとして、現地での作品制作や個展が行えるチャンスをいただけるようになりました。以前から興味のあった戦争を初めとする数々の人間の歴史。その根源ともいえる「人間とは何ぞや」の延長上で、自分から行動していく時が来たなという感じでのスタートとなり、私の「人間の生き方を見つめる旅」はさらに深くなっていったのです。
 ドイツは日本と同じく過酷な戦争体験をもち、過去に差別や迫害を受けながらも今もユダヤ人社会が共存する国。ドイツでは精神病院や少年院に加え、ナチスの強制収容所にも足を運び、窓を撮り続けました。さらに、病院で亡くなった患者たちが使っていたクシや歯ブラシ、日記帳、家族写真などの遺品もカメラにおさめ、作品『記憶・境界・不在』として発表してきました。
 私がドイツに行くたびに感じるのは西洋、東洋関係なく人間が行ってきたこと、人間がやり得ること。そして、その人たちが生きて死んでいった魂のささやきのようなものを感じるのです。ひょっとして時代が違っていたら自分がその立場だったかもしれない。たくさんの窓を撮りながらも、自分は出ていこうと思えば出ていけるけれど、かつてそこにいた人は絶望しかなかった。その人たちがいてくれたから私たちがいる、自分が生かされていると感じるのです。

「汝、何を欲するか」(2003年)
「汝、何を欲するか」(2003年)

 2003年の作品『汝、何を欲するか』は子どもが主題だ。世界各地の12人の子どもたちが、目を閉じて瞑想する写真を布に焼きつけたものである。本来なら希望に満ち、元気いっぱいに遊び回っているはずの子どもたちが、なぜか目を閉じている。でも、本当に目を閉じ、瞑想をしなければいけないのは「汝」、つまり「大人」なのだ。井上さんが「人々は何を欲し、何に向かって歩もうとしているのか」と問いかける作品である。
 
 日本も含め外国を歩いてみて、気になり始めたのが子どもたちの目の奥に読み取れる深い悲しみのサインでした。アメリカでは幼児誘拐が急増し、2002年に滞在したアラスカの北西端のイヌイットが住む町でも犯罪のトップはドメスティックバイオレンスで、子どもを含めた弱者が深い傷を負っていた。ある家庭では、夫からのDVに耐えられず、アルコール依存症の若い母親が朝から浴びるほど酒を飲み、放りっぱなしの赤ちゃんはほとんど裸のまま掃除もされないグチャグチャの部屋で泣きわめいていた。その時の赤ちゃんの目が忘れられないんです。
 美しい自然につつまれた別荘地で山上には立派なコテージが立ち並んでいるのに、白人の富豪たちは自家用機で飛んでくるだけ。戦争をはじめ、飢餓、虐殺、家庭での虐待・・・、世界は今、子どもたちに見てほしくないことだらけ。すべて子供たちにしわ寄せが来てるのではないかと思うのです。以来、世界各地に行くたびに子どもたちと会話し、写真を撮り続けてきたのが『汝、何を欲するか』の作品です。子どもたちに目を閉じてもらったのは、あまりに物事が速く過ぎ去っていく今の世の中で、「このままでいいのか」という思いから、「目を閉じてどこにいきたいのか、もう少し考えましょう」という問いかけ。私たち大人は、「自分が今どこに立ってるのか」が分からなくなっているのではないでしょうか。

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