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被害者の人権を考える 『置き去りにされる被害者たち』
(シリーズ2回目)

 連日のように起きる悪質な交通事故や凶悪な殺傷事件。特異な事件でなければマスコミに取り上げられることもなく、仮に報道されても、内容は加害者の生い立ちや精神問題ばかりに集中し、事件そのものはたちまちにして忘れられていく。その陰で、遺族や被害者は、一生かかっても拭いきれないほどの痛手を受けながら、社会的支援もほとんどなく、泣き寝入りを強いられるのが現状だ。加害者が憲法や法律で守られている一方で、声をあげることすらできない被害者たち。「被害者の人権1」で紹介した「高松聡至くんリンチ殺害事件」の裁判を担当する垣添誠雄弁護士(60歳)に犯罪被害の実情を聞いた。

欧米より20年も遅れた日本の被害者支援 「被害者の人権を考えた総合的な支援制度の確立を」 ひょうご被害者支援センター理事 垣添誠雄弁護士(垣添法律事務所)垣添誠雄弁護士の写真 

 いつ犯罪に巻き込まれるか、わからない世の中である。たとえば、家族が外出先で通り魔に遭い、刺されて亡くなったと想定してみよう。本人は救急車で病院に運ばれ、その後、家族は警察から連絡を受けて病院に駆けつけるという展開になるはずだ。突然の訃報に気持ちが動転したまま、遺体の確認、警察での聴取、実況見分の立ち会い、葬式の準備・・・と、それまで予想もしていなかった事態に否応なく対応することになる。
「こうした急激な変化によって、多くの遺族に起こるのが『急性ストレス障害』。突然、肉親を亡くした喪失感から、どうしていいか分からずぼんやりしてしまう呆然自失の状態や、混乱状態に陥ってしまうのです」と垣添弁護士。
 当然、眠れなくなったり、物事に集中できなくなったりもする。そんな中で行わなければいけない葬儀や、日常の暮らし。
「本来なら喪に服し、亡くなった肉親と向き合い、しっかりと語らいをしなければいけない時期に、精神は安定せず、事件が『トラウマ(心的外傷)』となって、そのトラウマによるストレス障害『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』にかかる人が多いといわれています」
 さらに、遺族を苦しめるのが、加害者ばかりを気づかう警察の対応や、マスコミの取材攻勢、地域社会の偏見だ。「本人に何か問題があったから、やられたのではないか」などと、ゆがんだ見方をする人もいて、無責任な噂やあらぬ中傷に悩まされることもある。高松由美子さん(殺害された高松聡至くんの母)の場合も、事件後、スーパーで知り合いに出会っても、いつも通りのあいさつさえしてくれる人はなく、人の冷たさを改めて感じたという。そうした精神的被害から遺族は孤立し、家族の絆がバラバラになったり、離婚したりする例もあるそうで、被害者は二次的被害によって二重に苦しめられることになる。
 垣添弁護士によれば「こうした犯罪被害者特有の問題には、法的、経済的、メンタル、社会福祉、医療面など総合的な支援が不可欠だが、いまだに欠落しているのが現状」だという。

これまで意識的に排除されてきた被害者たち

ひょうご被害者支援センター事務局

 欧米では1950年代から被害者の人権が注目されるようになったのに比べ、日本で問題視され始めたのは10年ほど前から。日本に「被害者学会」が誕生した1990年頃だ。
「日本の刑事司法には、『国家権力』対『加害者』という図式しかなく、被害者が入り込む余地がないばかりか、これまで被害者はタブー的存在でした。被害者を持ち込むことは加害者の人権を抑圧し、足を引っ張るものとされ、意識的に排除されてきたのです」
 欧米では1970年代後半から被害者の復権が叫ばれ、民間レベルでの被害者支援活動も始まった。
「欧米の被害者支援は、まずは被害者自身が自助グループをつくり、それを周りの支援団体がしっかりとした圧力団体となって法律をつくり、社会体制ができていくというボトムアップ形式。ところが日本では、孤立無援のなかで少数の被害者学会の学者を中心に門戸が開かれ、今日の基礎を築いてきた。世界とは大きな落差があり、日本の被害者支援は少なくとも20年は遅れていると言えるでしょう」と垣添さん。
 そして、1985年には国連が「犯罪被害者の人権宣言」を勧告。各国の被害者支援の準則をつくったが、日本はその勧告を無視したことも立ち後れの理由のひとつとなった。

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