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高齢者

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2003/03/07
映画「折り梅」で考える高齢者問題


向き合えば、自分の世界も広がっていく

映画の一シーン
「折り梅」の一場面。義母・政子(吉行和子)の思い出を聴く巴(原田美枝子)。

多くの介護者の皆さんが観てくださるこの映画で、私が伝えたいのは「心」。100人の方が観られたら、100通りの感じ方があると思うのですが、どこかワンシーンでもいいから観る方に気持ちの切り替えのヒントを見つけてもらえれば嬉しい。この映画が手本じゃないし、答えを示してるんじゃないんです。人にはそれぞれの生き方があり、家族にはそれぞれの歴史があるはずですから。中には、大変な介護をされてる方がご覧になって、「あの主人公は強いからできるのよ」「現実はもっと大変よ」とマイナスに解釈される方がいらっしゃるかもしれない。でもね、自分の人生は自分を生きるしかないわけです。私自身、変えられる部分は自分の足元だけでも変えてみようと思うほうだから、そういうエネルギーをみんな持ち合うべきじゃないかという思いが基本にあるんですよね。

たとえば、最近、私はハンディキャップというのはハンディじゃなくて、ハンディのあるほうがアドバンテージだと思うことが多いんです。障害をもつ子のお母さんたちは、私たちが考えられないような輝く笑顔をされるし、すごいプラス志向なんですね。そういうお子さんを育てる中で、ものすごく苦しんで、ご自分をさいなんで。そこをくぐり抜けた末の力強さを持ってらっしゃる。私たちは小さなことを社会のせいにしているのに、お母さんたちは子どもを誰よりも愛し、喜びをつかんでおられる。
介護も同じで、親の痴呆ときちんと向き合い、介護をやり切った人というのは、痴呆のお年寄りしか持っていないものをいただいたというまでの境地になっていらっしゃる。ただし、私がいう介護は、介護者が辛い辛いと思ってひとりで背負い込むものじゃなくて、いい状態で向き合うために社会的サポートを利用し、自分も犠牲にしないたくましい介護のこと。そうじゃないと介護の状態も悪くなるし、介護される側にも迷惑な話ですものね。

松井久子さん 日々の繰り返しのなかで、変わってしまったお年寄りと向き合って苛立つというのは当然のことです。そんな状況でお年寄りと上手くつきあうには「こうしてあげなきゃいけない。ああしなきゃダメだ」といった「べき論」「マニュアル主義」から、自分を解放させることだと思います。
しんどくなったら専門家に任せて、たまにはリフレッシュする。介護は上から見ている限り、しんどいことで、あるがままを認め合う関係じゃない。「こんな素敵なことを教えてくれるんだよ」というところまでどうして行けるかですよね。今の社会は、どうやったら楽にできるかといったマニュアルを求め過ぎていて、生きている実感が希薄のような気がしてならないんです。
最近は、男性の「介護分担」なども、スローガン的にいわれることが多いのですが、私はあまり賛成できない。それよりも男性自身がその気になって、介護を行うほうが、会社の仕事では得られない喜びが得られるんだと自発的に思われなければダメだと思うんです。
心から、「自分の親なんだから自分できちんとしたい」と、その問題自体から目をそらさないで見ることが大切じゃないでしょうか。
誰もが通らなければならない「老い」という重く深い人生の課題に立ち向かうために。

●「折り梅」上映のお知らせ
日時:
2003年3月15日(土)~21日(金)
(1)12時30分~  (2)14時45分~ (3)17時00分~
  2003年3月29日(土)~4月4日(金)
10時30分~(1回のみ)
場所:
第七藝術劇場 http://www.nanagei.com/
大阪市淀川区十三本町1-7-27 サンポートシティ6階
(阪急 神戸線・宝塚線・京都線 十三駅より徒歩3分)
電話:06-6302-2073 
※情報が変更となる場合もございますので、ご了承下さい。

松井久子(まついひさこ)

1946年東京生まれ。早稲田大学演劇科卒業後、雑誌の編集者、ライターとして活動。1979年俳優のプロダクション・有限会社イフを設立。多くの俳優のマネージャーを務め、1989年にはテレビ番組の製作会社エッセン・コミュニケーションを設立。ドキュメンタリー番組などのプロデューサーとして活躍。1998年、企画から公開まで5年をかけて製作した『ユキエ』で映画監督デビュー。日本映画製作者協会フィルムフェスティバル1997最優秀新人監督作品賞をはじめ、文化庁1998年度優秀映画作品賞など数多くの映画賞を受賞。

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