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これでいいの?日本の伝統文化 永六輔さん2

2001/02/02


考えてほしいといえば、猫皮三味線が危機に瀕していることもそうです。
動物愛護団体からの要請が元になって、昨年12月に「動物愛護及び管理に関する法律」が改定され、三味線の材料になる野良猫を捕獲しちゃいけないということになった。野良犬の捕獲が一律に、「みだりな殺傷」に当たるとしていて、最高「禁固1年」の刑にあたるというわけ。僕は、「伝統芸能にかかわる三味線、太鼓、鼓など楽器の製造に使う場合は、これに当てはまらない」という付則をつけなさい、という運動をしています。


猫皮
猫皮は、主に細・中棹三味線に張る。背筋から割り、皮が薄く、伸ばすのに高度な技術が必要である。

古典芸能は、みんな三味線を使うじゃないですか。プラスチックで作ると、全然音が違う。日本の伝統芸能を守るためには、どうしても猫の皮が必要なんです。しかも今、猫の皮をなめす技術を持っている人は、日本中に、奈良にいらっしゃる方一人だけ。その方が、この法律によって猫の皮を手に入れることができなくなってきている。じゃあ、伝統芸能はどうなるんですか、と皆さんに考えてもらいたいのです。

三味線に使うのは、野良猫でないと駄目なのね。高いところから飛び降りたり、ケンカしたりして、子どもの頃から傷だらけの野良猫の皮は、傷つき、厚くなっている。それが、あの音色につながるんです。一方で、保健所が処分する野良猫は相当数にのぼっているのだから、矛盾している。
津軽三味線弾きの高橋竹山さんは、猫の供養のために弾いているとおっしゃっていました。「頑張って弾いて、いい音を出すと、多くの方が喜んでくださる。それが猫の供養になる」と。
伝統芸能にかかわっている人は、この問題について声をあげるべきだと僕は思う。でも、みんな声をあげないのは、猫の皮なめしが部落産業だから、声をあげて解放同盟とのかかわりが出てくると嫌だという考え方があるからでしょう。これは、ゆゆしき問題ですよ。

次回へつづく)

永 六輔(えいろくすけ)
随筆家、作詞家、放送タレント。
1933年、東京・浅草生まれ。学生時代にラジオ番組やテレビ番組の構成に関わって以来多方面に活躍。「上を向いて歩こう」「こんにちは赤ちゃん」などの作詞を手掛ける一方で、各地の芸能を訪ね、尺貫法など日本の文化を守る運動も行い、今も1年のうち300日以上は旅暮らしが続いている。『大往生』『芸人』『職人』『商人』(以上、岩波書店)など著書多数。