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これでいいの?日本の伝統文化 永六輔さん2

2001/02/02


日本中を旅し、さまざまな人やものとの出会いを大切にしていらっしゃる永六輔さんの2度目のご登場。今回は、日本の文化や芸能の現状から見えてくる部落をとりまく問題について語っていただきます。

これでいいの?日本の伝統文化 永 六輔

あちこちに旅をしている僕は、各地で素晴らしい芸能と出会ってきました。
道をたどって家々の軒先や街角、盛り場、社寺の境内などで行われた大道芸や放浪芸、土着の素人が行った狂言などを含め、日本の芸能のルーツは部落芸能です。江戸時代に歌舞伎を創始した出雲の阿国も、当時は被差別の立場でしたし、歌舞伎役者たちが京都の四条河原で興行したことから「河原乞食」という蔑称もついた。能や狂言、文楽など日本の伝統芸能も、被差別の立場にあった人たちの、職業を選ぶ自由がなかった中での生業として始まり、発展してきたものなんです。
今、芸能をそういう部落の人たちとの関係を意識しながら受け継いでいる人もいれば、古くからある面白いものとして興味を持つ人もいる。これは、知らないから良くないという筋合いのものではないと思いますが、いずれにしても、そういった芸能を見直し、復活させようと周防の猿回しの会や猿舞の会が出来ているのは、うれしいことですよね。

岩手県・盛岡周辺で、毎年6月15日に行われる 「チャグチャグ馬こ」という行事があります。日ごろ人々がお世話になっている愛馬への労をねぎらうのが目的で、金糸銀糸で思い思いに着飾った馬をひいて、滝沢村の駒形神社から盛岡八幡宮まで15キロの道程を4時間かけて行進するお祭りなんです。
行列の先頭に、部落の人の生業だった猿回しがいます。猿は馬小屋の病気を払うという大切な仕事を持っているんですが、このお祭りが無形文化財に指定された時、指定されたのは馬だけ。猿が入っていなかったんです。
これはおかしい。僕は、猿も指定しなさいよ、と言ったのだけど、盛岡市は認めなかった。昔の絵図にも必ず入っていて、このお祭りのそもそも一番肝心な役目を果たしているのに、ですよ。なぜ、馬は無形文化財に指定されるのに、猿は指定されないか。僕は、皆さんに考えてほしいと思います。