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2008/09/22
改正戸籍法施行を機に考える「戸籍と人権」



苦しい人ほど「スター」を求め、支持する

――改正戸籍法の目的は、「戸籍の不正取得事件」を抑制するためだそうですが、つまりどういうことなのですか。

二宮さん写真 本人の知らないうちに、戸籍が第三者に取得される事件が相次いで発生しているのです。
行政書士が戸籍謄本を不正に取得し、興信所に売っていた事件がありました。不正取得された戸籍は、勝手に売買された上、消費者金融からの借り入れや、虚偽の養子縁組や婚姻などに使われ、資産が狙われたりした。ある行政書士は、「戸籍謄本等を取り寄せます」とファックスで興信所に営業をかけ、戸籍謄本1件あたり2500円から3000円で売っていました。また、別の行政書士は、職務上請求用紙そのものを100枚約6万円で興信所に売買し、年間300枚から400枚もの請求用紙を不正使用していました。
ある女性が、自分の知らない間に戸籍謄本をとられ、身元調査によって部落出身であることが暴露され、男性側の両親から結婚に反対されるという事件も起きています。戸籍謄本を入手したのは、男性の両親の知人の司法書士でした。興信所が結婚の身元調査を引き受けて行政書士などに頼む、典型的な部落差別事件ですね。

――戸籍は、極めてプライベートなもの。個人情報の集積ですよね?

そうです。個人の氏名、生年月日、死亡年月日、性別、国籍、本籍地、家族関係などを登録しているものです。婚姻、相続、パスポート取得などの際に、その個人を法的に証明するためのものとして必要とされています。
日本の戸籍の特徴は、届出制であることです。出生や婚姻など、届けられた内容を国が戸籍に登録し、その内容を戸籍謄本、抄本、記載事項証明書の交付によって、公に証明する手段となっています。もっとも、それは手段に過ぎない、という点を認識してほしいと思います。国籍は国籍法、親子関係は民法と個別の法律によって規定されているので、戸籍は家族関係などの証明の手段として、便利だから使われているといえます。

――自分の戸籍が、不正に取得されても、本人は分からないのですか。

今も、まったく分かりません。
改正戸籍法により交付請求をする際の要件は強化されましたが、基本構造が変わっていない。
自分の知らないところで、自分の情報を他人が勝手にアクセスし、利用しても分からないというのは、どう考えてもおかしい。しかし、戸籍は、個人情報保護法の対象外になっているのです。

――なぜ、個人情報保護法の対象外なのですか。

専門家は、本人に知らせずに戸籍を取得することが必要な場合もあると言います。例えば、離婚訴訟の場合、訴状を出す時に、本人確認のために戸籍が必要ですが、相手方が訴訟と知って、財産隠しをする前に弁護士が早めに相手方の財産の差し押さえをしたいという時。あるいは、刑事事件で情状酌量にもっていこうとしても、本人が口を閉ざす時、弁護士は家族の事情を調べる必要がある。いちいち本人の同意を得なければならないのだったら、「いやです」と言われればそれまで。そういった理由です。相続人の特定も本人の同意を得ていたら進まない。戸籍があることに慣れてしまっているから、戸籍がないと非常に不便だとおっしゃいますね。

――改善策はないのでしょうか?

私は、有資格者が交付請求をした場合、使用した後でよいので、「職務上あなたの戸籍を取得し、このように使いました」ということを本人に通知する仕組みを作ればよいと思います。
その場で、通知書を作成してもらい、戸籍係がこれを受け取り、後に、本人あてに郵送する。封筒の住所は交付請求者に書いてもらい、郵便切手も貼ってもらっておきます。通知をもらった人が、了解すれば問題はなく、「心外だ。同意を得てほしかった」というなら、抗議をしてもいいのではと思う。表向きは相続であっても、差別や財産狙いに使われる例もあるかもしれないですから。とにかく自分の情報を誰が利用したのか、本人に知る機会を保証する必要があると思います。
それが今回の改正ではできていない。ただし、改正戸籍法の中に「本法の施行状況及び他の関連制度における扱いに照らし、第三者が不正に戸籍の謄抄本を交付請求することを防止する更なる措置の導入について検討を行うこと」と附帯決議がつけられています。また、改正後の実施の細目は、今後通達で決められていきます。現場から声をあげる必要がありますね。

――実際には、戸籍取得の件数はどれくらいありますか。

年間約3万6000件です。もっとも、1人の相続に10何通が必要になるケースもありますから、取得件数を論じても意味がないでしょう。不正取得の戸籍が部落差別に使われるケースは、解放同盟など人権団体の人たちが丹念に調査して初めて明らかになる。明らかにされない限り闇で、それは今も無数にあるのです。
戸籍が使用された後、どのように管理されているのか不明なことも問題です。銀行では、相続を確定するために提出させた戸籍を、ある年度までは保管し、あとは自主的な判断でシュレッダーにかけると聞きますが、あくまで自主的な判断です。また、昔の有名な人の戸籍が高値で取り引きされている、壬申戸籍がネットオークションにかけられているとも聞きます。

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